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    全日本選手権優勝記念「えのきどいちろうゲームレポート」一般公開

平素よりアイスバックスへ応援をいただきまして誠にありがとうございます。
全日本選手権優勝を記念して、ファンクラブ会員様向けのメールマガジン用原稿
「えのきどいちろうのゲームレポート 第91回全日本アイスホッケー選手権大会」を公開させていただきます。

「もっと大きな山」

 

 第91回全日本アイスホッケー選手権、白熱の決勝戦から一日が経過して今、PCに向かっています。やりました、アイスバックス日本一ですよ。バックスとしては4年ぶり3度目、前身の古河電工アイスホッケー部から数えると通算7度目の栄冠です。

 

 僕は市民クラブを旗揚げしてお金が底をつき、全日本出場を辞退しそうになった頃のことを覚えています。会場は北海道でした。そこへ行く旅費も宿泊費もない。下野新聞に大きく報じられて、ファンが募金に立ち上がったのです。僕も当時はただのファンでした。みんなでお金を集めて、貧乏ホッケーチームは大会に出場した。勝てなかったですよ。正ゴーリーだった春名真仁(現・日本代表ゴーリーコーチ)が「本当に残念ですが、気持ちだけじゃホッケーは勝てない」とコメントした。だけど、僕ら胸を張ったものです。結果じゃない。俺らはあいつらの誇りを守った。あいつらは敗れはしたけど本気で戦った。いつか見てろ、勝ってみせる。

 

  一般的には「バックス」はアイスホッケーチームの名前だと思われています。H.C.栃木日光アイスバックス。HCはホッケークラブですよね。そういう理解でしょう。だけど、本当の本当はホッケーチームじゃないんです。「俺らはあいつらの誇りを守った」の「誇り」のことなんです。「いつか見てろ、勝ってみせる」と言うとき、「俺ら」も「あいつら」もない。実際に氷上で戦う選手も、ベンチで支えるスタッフも、スタンドで声を枯らすサポも、中継に見入るファンも、心が通じているスポンサーさんも、今日だけどうしても来られないけど念を送るっていう人も要はおんなじでしょ。同じ「誇り」を胸に抱いている。 だから「おめでとう」を誰が誰に言うか難しいことになりますよ。

 

 ファンが選手に「優勝おめでとう」これはいいですよね。でも、選手らもファンに「優勝おめでとう」と返したくなります。結局、お正月方式ですね。「おめでとうございます」「あ、どうも、おめでとうございます」。おめでとうの相打ちみたいな感じでしょうか。 「今回ほど応援が力になったことはない」(福藤豊)「バックスファミリーの勝利です」(寺尾勇利)優勝を飾った直後、攻守のヒーローが発したコメントです。「バックス」は一体。みんなで心を合わせて戦って勝った。そこに価値があります。みんな一人じゃない。オレンジの仲間だ。いつか見てろの「いつか」は今なんだ。日本一ですよ。「バックス」は歴史をつくりましたよ。 

 

  では、レビュー的なことを少々。準々決勝・東洋大戦の「大塚一佐vs佐藤永基」の世代NO.1級ゴーリー対決は見応えありました。佐藤君はさすが日本代表、アジアリーグ入りが確実視される選手です。プロの猛攻に耐え、紙一重の勝負に持ち込んだ。一佐もよかったですねぇ。イヤな時間帯もあったけど、流れを渡さない。ハンガリーに行ってる春名真仁コーチがU-20世界選手権に呼べないのを残念がっていました。たぶん2人の対決は今後、アジアリーグの名勝負数え唄として語られることでしょう。いいもの見たと感動しました。

 

  準決勝レッドイーグルス戦、決勝フリーブレイズ戦は結果的にどちらも2ピリが勝負のアヤだったと思います。基本「押されに押され、ガマンする」展開だったでしょ。プレーオフや全日本のような密度の高いゲームは、両軍戦意も集中力も高く、チェック・バックチェックを怠らずハードワークしますから、あまり点の取り合いにはなりません。どれだけ守れるか、ガマンがきくかにかかっているようなところがあります。準決勝のダブルマイナー×2(ペナ箱4分が2人)なんか典型ですけど、あれを必死でしのいだことがポジティブな流れを引き寄せた。「追いつかれても、リードは許さなかった」点は特筆すべきです。 もちろん今大会のエースゴーリー、福藤豊は神がかりでした。DF陣も身体を張ってよく守った。といってFWも懸命につぶしに行ったでしょ。

 

 そしてサポ、ファンが声や拍手で敵襲を防ぎ続けた。あれはホントにみんなで守りましたよ。 いつか見てろの「いつか」。その「いつか」はやって来るんです。準決勝はオーバータイムの勇利弾。決勝は勇利のシュートをチップして流し込んだ磯谷奏汰&エンプティ決めた大椋舞人。 歓喜の爆発です。みんなヘルメットやグローブを投げ出して抱き合い、だんごのように重なる。福藤がバンザイして、輪に加わる。歓声。歓声。揺れる大旗。感極まって動けない人。ガッツポーズ。拳を突き上げる人。隣りの人と手を取り合って泣き崩れる人。言葉にならない叫び。うおおおおお。 美しい夢のような光景。 チーム表彰。ベスト6とMVP。僕はとにかくスタンドのあちこちを回って「ありがとうございました」と声をかけた。

 

 僕は後で氷上に出て、佐藤大翔や坂田や相馬やとにかくみんなに「ありがとう」とまったく同じことを言った。チームからはトロフィーがスタンドのみんなに手渡される。あんなわかりやすいことってありますか? みんな試合を見に来た受け身の存在じゃありませんよ。一緒に戦ってトロフィーを勝ち取ったんですよ。あなたのトロフィーでもあるんですよ。 

 

 冒頭、遠征費がなくなって全日本に出場できなくなった旗揚げ時の話をしましたね。それは昔のことではあるんだけど、昔のことじゃないんです。程度の問題というだけでコロナ禍はホッケーチームをつぶす寸前だった。クラウドファンディングやオークションやグッズ販売で何とか息をついできたんです。「ひがし北海道クレインズ」の悲劇はとても他人事じゃありません。そもそも対戦相手が一つ減るだけで大変な打撃です。だから、程度の問題はあるにせよ、構造はあのときと同じ。みんなが全日本にチームを出してくれて、みんなでサバイヴして、みんなで日光の「誇り」を守った。書いてて泣けてきますよ。 

 

 勇利がね、さっそく言い出したんですよ。「もっと大きな山」のこと。みんなで登ろうって。みんなで力を合わせて登ろうって。本当に嬉しい。僕らは生き残ることと勝つことが同じです。いつか見てろ、勝ってみせる。いつか見てろ、やり遂げてみせる。ですよね? 違いますか?(2023年12月11日えのきどいちろう)